大阪地方裁判所 昭和43年(わ)458号 判決 1968年8月10日
本籍
韓国慶尚北道奉化郡祥雲面文村里七五〇番地
住居
大阪市浪速区日本橋東四丁目一〇番地
天津栗小売業
琴浦定吉こと琴鳳祥
明治三〇年二月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当栽判所は検察官豊島時夫出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役十月及び罰金六百万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は肩書住居等で天津栗の卸売を、大阪市南区難波新地内で天津栗と南京豆の小売を、同市浪速区新川町内で、琴浦武夫の名義を用いて旅館業をそれぞれ営んでいたものであるが、所得税を免れようと企図し、主たる所得源である右天津栗の卸売につき、その仕入、販売等に全て仮名を使用するなどしてその取引とこれが所得の一切を秘匿する等の不正行為により所得金額の大部分を除外したうえ
第一、昭和三九年度分の実際課税総所得金額は二一、五二四、〇〇〇円でこれに対する所得税額は一〇、五六二、四〇〇円であるのに拘らず右所得金額中一九、五八五、〇〇〇円を秘匿して、昭和四〇年三月九日南税務署において、同署長に対し、同年度分の課税所得金額は一、九三九、四〇〇円で、これに対する所得税額は四五一、七九〇円である旨の被告人名義の、同月一五日、浪速税務署において、同署長に対し、同年度分の課税総所得金額及び所得税額はいずれも零である旨の琴浦武夫名義の、それぞれ所得金額等をことさら過少に記載した各所得確定申告書を提出し、前示秘匿所得に対する所得税一〇、一一〇、六〇〇円は所定の期間を経過するも納付せず、もつて不正行為により右同額の所得税を逋脱し
第二、昭和四〇年度分の実際課税総所得金額は三二、二八二、〇〇〇円で、これに対する所得税額は一七、一二五、三〇〇円であるのに拘らず、右所得金額中三二、二五九、五〇〇円を秘匿して、同年度中の被告人名義の予定納税額につき、浪速税務署において、これを一四四、二五〇円とすることの承認を得た外、昭和四一年三月二日同税務署において、同署長に対し琴浦武夫名義で、同年度分の課税総所得金額は二二、五〇〇円で、これに対する所得税額は一、八〇〇円である旨所得金額等をことさら過少に記載した所得税確定申告書を提出したのみで、前示秘匿所得に対する所得税一六、九七九、二〇〇円は所定の期間を経過するも納付せず、もつて不正行為により右同額の所得税を逋脱し
第三、昭和四一年度分の実際課税総所得金額は二四、一三九、〇〇〇円で、これに対する所得税額は一二、〇六四、九〇〇円であるのに拘らず、右所得金額中二〇、〇七三、〇〇〇円を秘匿して、昭和四二年三月一四日南税務署において、同署長に対し、被告人名義をもつて同年度分の課税総所得金額は四、〇六五、四〇〇円で、これに対する所得税額は一、二一一、〇〇〇円である旨、所得金額等をことさら過少に記載した所得税確定申告書を提出し、前示秘匿所得に対する所得税一〇、八五三、九〇〇円は所定の期間を経過するも納付せず、もつて不正行為により右同額の所得税を逋脱し
たものである。
(証拠の標目)
全事実につき
一、松本俊夫の調査書(八月一一日付二通、二月一四日付)三通
一、南勇の大蔵事務官に対する質問てん末書三通
一、唐木尚の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書
一、城戸茂孝の確認書
一、辰己屋の確認書
一、琴乙渕の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び検察官に対する供述調書
一、戎電話局長の回答書三通
一、関西電力料金課の回答書
一、水道局上本町営業所長の回答書
一、大阪ガス上本町営業所の回答書
一、岡本義男の確認書
一、森田琢磨の調査書(四月七日付)
一、権寧順の大蔵事務官に対する質問てん末書二通
一、中森富子の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、被告人の当公廷における供述並に大蔵事務官に対する質問てん末書一三通及び検察官に対する供述調書二通
一、押収中の売上帳(昭和四三年押第四五七号3の12)、仕入帳(同5)
判示第一の事実につき
一、南税務署長の証明書(三九年分)
一、浪速税務署長の証明書(同)
一、浅野重一郎の供述書
一、松本俊夫の調査書(六月一〇日付)
一、奥野猛の調査書(四月二八日付)
一、押収中の栗貨物関係書類綴(昭和四三年押第四五七号15)、小口冷蔵請求複写簿(同15)
判示第二の事実につき
一、浪速税務署長の証明書(四〇年分)
一、坂東覚の調査書
一、奥野猛の調査書(四月一九日付)
一、押収中の冷蔵得意先元帳(昭和四三年押第四五七号1318)
判示第一、第二の事実につき
一、李鳳出の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、岩井秀雄の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、藤林宗源の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、山田太郎の調査書(五月四日付)
一、嶋村巌の確認書
一、酒井宏の確認書二通
一、押収中の冷蔵庫保管料売上帳(昭和四三年押第四五七号17)、玉葱関係書類綴(同8)、冷蔵綴(同10)、青果入出庫伝票綴(同14)
判示第三の事実につき
一、南税務署長の証明書(四一年分)
一、横田隆司の確認書
一、野田知機の確認書
一、藤林義子の確認書
一、森田琢磨の調査書(四月一〇日付)
一、福徳相互銀行難波支店の確認書
一、宮本好正の確認書
一、謝花喜光の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、春沢芳太郎の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、押収中の手帳(昭和四三年押第四五七号4の12)、冷蔵入出庫台帳(同11)、元帳(同7)、小口冷蔵得意先元帳(同12)、納品書請求書綴(同6)、領収書(同2)
判示第二、第三の事実につき
一、園田重雄の確認書
一、森田琢磨の調査書(四月一五日付)
一、山田太郎の調査書(四月八日付)
一、石田一敏の確認書
一、押収中の仕入帳(昭和四三年押第四五七号16)、手帳(同1)、小口冷蔵入出庫育帳(同9)
(法令の適用)
被告人の判示所為中第一の罪は昭和四〇年法律第三三号附則第三五条により、同法による改正前の所得税法第六九条第一項に、第二、第三の罪は各所得税法第二三八条第一項にそれぞれ該当するので、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科すべきところ、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから懲役刑につき同法第四七条、第一〇条による犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑につき同法第四八条第二項によりその額を合算した刑期及び金額の範囲内において被告人を懲役十月及び罰金六百万円に処し、同法第一八条により右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、情状により同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 村上幸太郎)